この路地の先に・・その29
夕べ、遊びに来ていた大学生の男の子から、朝ごはんの招待を受けた。
かわいい妹さんの掌には、オレンジ色の美しい模様が描かれていた。
これは、ヘンナというものだそうだ。
実は、数日あと、私たちも、このヘンナを経験する事になるのだが、
これって、当分の間は消えなくて、日本に帰ってから、ひたすら手を隠すはめになってしまった。
お昼ごはんは、ラシッドの友人が住む新市街地にあるマンションで御馳走になった。
この辺りは、城壁の中とは違い、現代的な建物が立ち並んでいた。
一緒に食事をした友人たちは、中学校の数学の先生、エレクトロニックの先生、
医大の学生と、ここはちょっと、インテリな人たち住んでいる場所らしい。
でも、みんな、気さくでいい人ばかりだ。
そのあと、私たちは、おんぼろバスに乗り、アトラス山脈を越えた先にある町、
ワルザザードへ向かった。
窓の外は、ほとんど樹木も生えてないごつごつとした岩肌の荒涼とした風景が続く。
日本に帰って、杉の木が整然と立ち並ぶ美しい山々を見た時、
今まで当たり前すぎて、なんとも思っていなかった緑で覆われた山に初めて感動した。
日本って、こんなに美しい国だったんだと、再認識できたことだけでも、
この旅の意義があったように思えた。
(その後、花粉症にかかって、毎年苦しむので、今は杉の山は憎たらしいだけだが)
そんな道の傍らで、石を売っている人がいた。
化石とか、水晶などらしいが、ここで、重たい石のお土産を買うわけにはいかない。
ほんのちょっと、覗いて帰るはずだったモロッコだが、
マラケシュの喧騒や、人々の人懐っこさと優しさに出会い、
その不思議な魅力に引き込まれるように、
どんどん奥地へと入り込んでしまう事になっていった私たちであった。
しかし、アトラスの向こうには、まだまだ、私たちの知らないモロッコが待ちかまえていた。